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酒場で泣く男【即興小説トレーニング】

 小さな町の寂れた酒場で、ある男が号泣しながら盃を傾けていた。おいおいと泣きながら酒に溺れる姿に気圧されて、誰もが彼をそっとしておいた。

 

即興小説トレーニングの作品を手直ししたものです)

酒場で泣く男

 

 

 
 小さな町の寂れた酒場で、ある男が号泣しながら盃を傾けていた。おいおいと泣きながら酒に溺れる姿に気圧されて、誰もが彼をそっとしておいた。

「つらいよう、くるしいよう」

 そう言って、粘膜がただれるほど強いアルコールを喉に流し込んでいた。店の主人も含め、周りはとても声をかけられる状況ではなかった。

「一体どうしたんです」

 それでも、勇気を持って話しかけた青年がいた。彼は遠い親戚を訪ねて町にやってきた、いわばよそ者だった。明日には都会へ帰る自分なら後腐れもないだろうと、率先して男の側に寄ってきた。

「つらいんだあ、とてもつらいんだあ」
「そうですよね、あなたがそんなに嘆き悲しむくらいですから。よければ、お話いただけませんか? あなたがどうしてそんなに苦しんでいるかを」

 青年がそっと尋ねると、男はさらに声量をあげてわんわん泣き叫んだあと、話し始めた。
  彼は裕福な家の生まれで、優しく立派な両親に育てられた。幸せな子供時代を過ごし、大人になれば天職に恵まれた。さらには想い人と結ばれ、子供もたくさん できる。生まれてから今まで、何不自由なく過ごしてきた。今でも、生活や人間関係などで特に困っていることはないらしい。

 青年は首をかしげた。

「それじゃあ、いったいどうしてそんなに悲しいんです」

 男は酒を煽って答えた。
 
「悲しいっていう気持ちがどうにもわからなくってなあ……」
 
 
 
 
 
 
お題:つらい酒 制限時間:15分 文字数:570