常々むぎょ劇場

常々むぎょのブログ別館。小説置き場になる予定

ちいさい秋

 木枯らしが吹きすさぶも、日差しがささやかな温もりをもたらす午後。茶色や黄色が目立つようになってきた庭に、冷たいサンダルをつっかけて降り立った。
 南天の茂みの奥に、どんぐりが二つ三つ転がっている。欠けも虫食いもなく、ワックスをかけたみたいにつやつやした木の実だった。
 
(即興小説トレーニングを手直ししたものです)
 ちいさい秋
 
 
 木枯らしが吹きすさぶも、日差しがささやかな温もりをもたらす午後。茶色や黄色が目立つようになってきた庭に、冷たいサンダルをつっかけて降り立った。
 南天の茂みの奥に、どんぐりが二つ三つ転がっている。欠けも虫食いもなく、ワックスをかけたみたいにつやつやした木の実だった。
 私の庭には、イチョウの樹や南天の茂みがたくさんある。しかし、ドングリがなる樹は一本もない。単なる偶然か、あるいは――勘違いで猟銃に撃たれた、かわいそうな狐の話を思い出す。しかし、どういう経緯でこの美しい実が落ちてきたかなど、どうでもよかった。最初こそ何かお礼をしようと迷ったが、樹から数個の銀杏が消えているのがわかったので、私も何もしないことにしている。
 向こうがどうかは分からないが、こちらは筋金入りの恥ずかしがりやなもので……もしうっかり鉢合わせでもしたら、私はきっと逃げ隠れてしまう。綺麗な実を差し出してくれるありがたい存在が、不信感を募らせてしまわないとも限らない。向こうから声をかけてこない限りは、決して会わない方がいいはずだ。
 
 どんぐりと銀杏の交換は、冬になるまで続くだろう。
 
 
 了
 
お題:限りなく透明に近い愉快犯 制限時間:15分 文字数:477
 
広告を非表示にする